クロアチア中央部スルーニ市の古い地区は、『ラストケ』と呼ばれ、保存状態の良い水車群とスルニチツァ川の絵のような滝で知られている村です。スルニチツァ川はここでプリトヴィツェを水源とするコラナ川と合流しています(プリトヴィツェから33km)。
マラ・カペラ山脈を水源とするイェセニツァ川は、わずか6kmだけ地表を流れ、その後、地底に潜り、カルスト台地の下を20kmにわたり流れた後で、スルーニ郊外6.5kmの場所で、スルニチツァ川と名前を変えて地上に現れます。そのスルニチツァ川が、コラナ川と合流する場所で、幅500m・長さ200mにわたり、石灰棚の自然のダムを形成しています。ここがラストケ村です。印象的なこの石灰層は、スルニチツァ川が地下を流れているときに蓄えられた大量のカルシウムの堆積物です。ラストケもプリトヴィツェ国立公園と同じく、堆積した石灰によって形成された自然のダムが幾つもの滝をつくっています。そのためラストケは、しばしば『小プリトヴィツェ』と呼ばれています。プリトヴィツェとラストケの両者はコラナ川によって繋がっています。
ラストケの石灰棚は、上ラストケと下ラストケに分けられます。石灰棚には、形状様々な小さな滝、急流や滝つぼがあり、特に「下ラストケ」には、スルニチツァ川からコラナ川に落差10~20mで流れ落ちる23の滝があります。中でも有名な滝は、ブク滝、フルヴォイェ滝、ヴィリナ滝、コサ滝(妖精の髪の滝)などです。
プリトヴィツェと比較したとき、ラストケの特徴的な点は、まずその『自然環境』です。冷たいスルニチツァ川と暖かいコラナ川の大きい水温の差で常に霧が発生するこの土地は、コケ・キノコ・ポプラ・柳など植生も豊富で、かつてはアナグマやカニの姿も見られました。鱒は古くから有名です。現在でも石灰棚の穴にカワウソが棲息しています。ラストケのレストランでは、オドヤクと呼ばれるローストポークや、ヤニェティナと呼ばれるラム肉など地元料理の他に、スルニチツァ川で獲れたばかりの鱒も提供しています。
2つ目が、その『素晴らしい自然と人類の文化・技術との共生』です。代表例が、スルニチツァ川とコラナ川の合流点に作られた、数世紀の歴史を持つ数々の水車です。全ての家々や水車はこの地域の独特なスタイルで、石灰棚に沿って建てられています。住居は、その高い部分は木材でできていますが、下の方は高濃度な石灰岩を利用して造られているため、川の水位が上昇しても浸水の心配がありません。水車は最盛期には22を数えました。最古のものは17世紀にまで遡ります。住宅が建設されたのが19世紀末なのにです。各水車にはそれぞれ所有する粉ひき屋の名前がそのまま付けられました。そして現在は、水車があるそれぞれの滝も同じ名称で呼ばれています。水車には複数の石臼があり、最上級の臼は白トウモロコシや小麦の粉ひきに、それ以外の臼で、黒トウモロコシやライ麦を挽き、また羊毛の毛布を生産し、この地区の経済発展に貢献してきました。水車の動力は洗濯にも利用されました。自然と人間の文化が共生しているラストケは、美しい風景だけではなく、文化人類学的にも貴重な場所となっています。