Column
砂漠の果ての美術館
《イゴール・サヴィツキー記念カラカルパクスタン共和国国立美術館》

Column砂漠の果ての美術館 《イゴール・サヴィツキー記念カラカルパクスタン共和国国立美術館》
↑ コロヴァイ作『ブハラ、旧ユダヤ人地区』

 

 ウズベキスタン西部・カラカルパクスタン自治共和国首都ヌクス。中央アジアのキジルクム砂漠に囲まれた小さなこの町にある美術館には、今まで光を浴びてこなかった数万点にも及ぶ名画が眠っています。

 20世紀初頭、『ロシア・アバンギャルド』という、既成文化の解体と自由な世界の創造を目指した芸術運動がロシアで花開きました。しかし、「文化革命」の名によるスターリンの弾圧により、それは成熟する時間を与えられないまま、ソ連では抹殺され、『社会主義リアリズム』に取って代わられます。それは絵画の分野で特に顕著で、亡命したシャガールやカンディンスキーらが海外で高い評価を得る一方で、ソ連国内に留まった画家たちは数奇な運命に弄ばれ、世に知られることなくその多くは粛清の対象となり、流刑や銃殺など悲劇的な末路を辿ました。

 戦後のソ連において、その散逸した絵画をたった一人で収集した人物がイゴール・サヴィツキー。ペレストロイカ以前の検閲の厳しい時代のソ連で、彼は人生の全てをかけて、歴史の闇に埋もれ、国家の弾圧下にあった作品たちを救い出し、モスクワから遠く離れた中央アジアの砂漠の町・ヌクスに美術館を作りました(1966年開館、ソ連時代は外国人立入制限都市)。彼の情熱によりに奇跡的に生き残った1920年代から30年代のソ連美術史の「空白」を埋める作品群。コロヴァイタンジクバエフクルジンボルコフといった、苦難の道を辿った無名にも近い天才たちの名画・名作群が、この『イゴール・サヴィツキー記念カラカルパクスタン共和国国立美術館(通称ヌクス美術館)』に収められています。旧ソ連地域の中ではロシア美術館に次ぐ前衛芸術のコレクションが『砂漠の果ての美術館』に眠っています。