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「嘆きの聖母」のビザンチン・ブルー(聖パンテレイモン教会)

Column「嘆きの聖母」のビザンチン・ブルー(聖パンテレイモン教会)
有名な絵画を鑑賞に海外旅行にでかけたときよりも、旅行先で知らなかった素晴らしい絵画に出会ったときの方が印象に残ります。

健康の守護聖人である聖パンテレイモンに捧げられた聖パンテレイモン修道院付属教会は、マケドニアの首都・スコピエから約7km離れたネレヅィ村に位置しています。
マケドニアがビザンチン帝国の支配下にあった1164年に建てられた同修道院は、他のビザンチン様式の教会同様、石とレンガを用いて建てられています。外観から判断すると、他の教会とあまり変わらないような印象を受けますが、内部に施されたフレスコ画は、それまでのビザンチン様式からの脱却と、後のルネッサンスへとつながる宗教芸術上、非常に重要な意味を持っています。
火災や地震などの影響から2つの時代に分けてフレスコ画は描かれています。13世紀以前のものは、ビザンチン芸術らしく、無表情で動きの少ないフレスコ画が施されていますが、14世紀以降に施されたものは、大変躍動感があり、表情も人間らしさに溢れているため、その違いが一目瞭然です。

この教会内で特に注目に値するフレスコ画が「嘆きの聖母(ピエタ)」です。十字架から降ろされたイエスを抱え、嘆き悲しむ聖母マリアの表情は、一般に知られるビザンチン特有の表情とは異なり、人間の子どもを失った母親のような人間的な表情で描かれ、見る者の心を奪います。
イエスの左手は聖ヨハネへと流れています。イエスの頭部からヨハネの下半身までつながる、丸みを帯びた美しい曲線美を重視したため、横になったイエスは空中に浮いたような形をとっています。
さらに、当時大変高価な顔料として知られていたラピスラズリをふんだんに使った「ビザンチンブルー」と呼ばれる見事な青色は現在では作リ出すことはできないとも言われています。

後期ビザンチンの傑作と称される聖パンテレイモン教会の「嘆きの聖母」。是非一度ご鑑賞ください。