Column
『歴史と音楽とグルメの古都』ボローニャのレンガ色の中世の街並み

Column『歴史と音楽とグルメの古都』ボローニャのレンガ色の中世の街並み

 イタリアはフィレンツェの北、エミリア・ロマーニャ州の見所は、歴史、自然、芸術の3要素に代表されます。こじんまりした魅惑的な町々、古代文明の遺跡、古い教会や貴族の館の数々が、アペニン山脈からポー河平野に至る牧歌的な景色の中に溶け込み、訪れる者を魅了します。この州の中心部にある街がボローニャです。ボローニャは、街中に「ポルティコ(柱廊)」と呼ばれるアーケード状の歩道が多いのが特徴で、市内におけるその長さは総計40kmを超えています。一般的には、二つの斜塔大学で知られるボローニャですが、町の真のシンボルはこのポルティコなのです。町を人々との出会いや交流の場と見なしていた昔のボローニャ人と同じように、雨が降っても散歩やお喋りを今も楽しむことができるのも正にポルティコのおかげです。800年前から存在するこの独特な建築様式は中心部とその周辺を結んでいましたが、時と共に3つの城門を越えて市外にまで発展しました。中でもサラゴッツァ城門から聖ルカの聖母礼拝堂と眺望台に続くポルティコは、全長3.5km、アーチ総数666個にのぼる世界最長のポルティコです。ボローニャ市が、その旧市街をユネスコ世界遺産に申請している根拠は、他に例を見ないほど市内に広くひろがるポルティコ建築によるものです。ボローニャは、ヨーロッパ最古の大学(1088年)をはじめ、博物館102件、劇場37件があり、美術から音楽、グルメに至るまで、豊かな地元文化に触れる機会に溢れています。住みやすいということは、生活の質が高いことに他なりません。この町はイタリアの「生活の質が高い都市」ランキング第一位にも輝いています。また、治安の良さから旧市街の界隈や酒場は夜遅くまで賑わいをみせています。

 18世紀前半に「偉大なイタリア音楽を学習する場」と呼ばれたボローニャは、宗教音楽、吟遊詩人、ユダヤ民謡など様々なジャンルの音楽が発展した町です。特に17~19世紀には音楽家の養成が盛んに行われ、ヨーロッパ各地の著名な芸術家が集まりました。モーツァルト(1770年にボローニャ音楽協会に入会)、リスト、ロッシーニ、ドニゼッティと言った音楽家たちも比較的長い期間をボローニャで過ごしました。リヒャルト・ワーグナーは1872年、ボローニャ市より名誉市民の称号を授けられました。旧市街の小さな通りに、これらの音楽家の名がつけられているのも、彼等がボローニャに何らかの形で貢献したからに他なりません。 アルディーニ・サングイネッティ宮殿近辺には、ロッシーニの家、マルティーニ音楽院、市立劇場、5000本のパイプと『音楽礼拝堂』が有名な下僕の聖母マリア教会、音楽の守護聖人・聖セシリアのオラトリオなどたくさんの見どころがあります。マッジョーレ広場にある聖ペトロニオ大聖堂には今なお演奏できるものとしては世界最古のオルガン(15世紀)があります。更に、ロッシーニ作の同名の楽曲(スターバト・マーテル)が初演されたボローニャ大学のスターバト・マーテル講堂と、聖ドミニコ教会の木製聖歌隊席(16世紀)も一見の価値があります。

 調理は儀式そのものであり、食物とワインに宗教性を見出し、食卓と喜びを分ち合う神聖な場と見なすボローニャで、市場や居酒屋、昔ながらの商店、今流行のお店をのぞいてみるのはいかがでしょう。ボローニャの料理は中世の昔から旅人や王族、文学者たちから「ラ・グラッサ(重厚な料理)」との賞賛を受けていました。マッジョーレ広場からバンキ宮殿方面に歩いてみましょう。路地が入り組んだこの界隈には、中世の昔から魚屋、金細工師、鍵職人、織物屋などの店が集まっていました。そして現在はグルメ天国として知られています。ボローニャ産ハム・モルタデッラからトルテッリーニ、ラザーニャ、トルテッローニ、お米のタルト、ズッパ・イングレーゼ、チェルトシーノ。地元ワインをお供にするとどれも格別の味わいです。この地方のなだらかな丘陵地帯は豊富なワインの生産地でもあります。赤ワインの発泡酒ランブルスコサンジョヴェーゼ(赤ワイン)が有名です。地元ワインの試飲・購入はボローニャ産ワインの瓶で棚が溢れているエノテカでどうぞ。地元のトラットリアにするか豪華なレストランか、由緒ある酒場か普通のバールか。レストランの種類も迷うくらいたくさんあります。

 ボロネーゼ・ソースは、肉を使ったボローニャ料理の代表的なソースです。伝統的には、卵と小麦粉でつくった入り手打ちパスタ・タリアテッラに使われるほか、ラザーニャなど他の生パスタにも使われます。海外ではこのソースは「スパゲッティ・ボロネーゼ」としてスパゲッティにかけることが多く、イタリア国内でも広く普及していますが、これは本来のボローニャ料理には入りません。なぜならこの地域ではパスタといえば卵入り生パスタが主流で、スパゲッティや乾燥パスタの使用はあまり好まれないからです。1982年にはイタリア料理アカデミー・ボローニャ支部がボローニャ商工会議所にボロネーゼ・ソースの正式レシピを登録しました。これはイタリアおよび世界においてボローニャの伝統的食文化の継続と尊厳を守ることを目的としたものです。 伝統的なボロネーゼ料理のプリモ・ピアット(前菜とメインの間のお皿)の中で最もクラシックでまた他の地域から最も「真似」をされた料理はトルテッリーニです。麺棒で伸ばした極めて薄い卵入りパスタの皮を使い、中には豚肉、ボローニャのモルタデッラ、卵などの詰め物をいれるのが、1974年12月7日にイタリア料理アカデミーのボローニャ支部等がボローニャ商工会議所に登録した正式なレシピの内容です。なお地元の伝統では、トルテッリーニは肉で出汁をとったスープで茹でて、スープ入りでいただくことが決まりとなっています。モルタデッラは、ピンク色の切り口に白い脂肪の部分が散りばめられたボローニャ特産のハム。ボローニャハム、またはボローニャ・ソーセージという名で世界に知られています。塩味が効いていてとてもおいしいので、ぜひお店で試食をしてみてください。市場では、手作りのパルミジャーノ・レッジャーノもおすすめです。塩水漬けのチーズの強い香りが楽しめます。

 

 ★ボローニャを訪れるコースはこちら